退院前のご家族から、こんな相談をいただくことがあります。「トイレと廊下に手すりをつけたいので、来週にでも業者さんに見積もりに来てもらう予定なんです」。段差やお風呂のまたぎが気になって、少しでも早く工事を終わらせておきたいという気持ちは、とてもよく分かります。
しかし住宅改修には、順番を間違えると介護保険の補助が受けられなくなってしまう、見落としやすい落とし穴があります。この記事では、退院前に手すりの設置や段差解消などの住宅改修を検討しているご家族に向けて、着工前に知っておきたいポイントを整理しました。
結論:住宅改修の「相談」は、退院の1ヶ月前までに
先に結論からお伝えすると、住宅改修は業者に工事を依頼する前の「相談」を、退院の1ヶ月前くらいから始めておくことをおすすめします。相談してすぐに着工できるわけではなく、このあとご説明する事前申請とその承認を経てから工事に入るのが原則だからです。相談・申請・承認・着工という一連の流れ全体を見込んで、退院までの残り日数から逆算して動き出す必要があります。
「まだ改修するかどうか決めていない」という段階でも構いません。まずはケアマネジャーや地域包括支援センターに、気になっている場所(段差・トイレ・浴室など)を伝えるところから始めてみてください。
最大の落とし穴:着工してからでは、補助が受けられないことがあります
住宅改修でもっとも注意していただきたいのが、この点です。介護保険の住宅改修費は、原則として着工前に市区町村への事前申請を行い、承認を受けてから工事を始める必要があります。先に業者へ工事を依頼して着工してしまうと、あとから申請しても補助の対象外になってしまう場合があります。
「早く手すりをつけたい」という気持ちから、相談より先に業者へ工事を依頼してしまうケースは実際に少なくありません。ですが、いったん着工してしまうと後から取り返しがつかないという点で、住宅改修はほかの手続きよりも慎重に順番を守る必要がある項目です。業者に工事を依頼する前に、必ずケアマネジャーか市区町村の住宅改修担当窓口に「これから改修したいのですが」と一声かけてください。
住宅改修費で使える金額と、対象になる工事
介護保険の住宅改修費は、支給限度基準額が20万円と定められています。この金額の範囲内で、実際にかかった費用の7〜9割(所得により自己負担は1〜3割)が支給される仕組みです。
対象になる工事としては、手すりの取り付け、段差の解消、滑り防止のための床材の変更、開き戸から引き戸への取り替え、和式便器から洋式便器への取り替えなどが挙げられます。実際にどこまでが対象になるかは工事の内容によって細部が異なるため、見積もりの段階でケアマネジャーや施工業者に「この工事は対象になりますか」と確認しておくと安心です。
認定結果が出る前に申請できる?ここは地域で差があります
もう一つ紛らわしいのが、要介護認定の結果が出る前の段階で、この事前申請を出せるかどうかです。実はこの点は自治体によって取り扱いが異なり、認定結果を待たずに申請を受け付けている地域と、認定が出てからでないと受け付けない地域があります。
似たしくみに、要介護認定の結果を待たずに介護保険サービスを先行利用できる「暫定ケアプラン」があります(別記事「認定が下りる前でも介護サービスは使える?暫定ケアプランの仕組み」で詳しく取り上げています)。ただし住宅改修の事前申請は、暫定ケアプランとは別の手続きです。暫定ケアプランが使える地域だからといって、住宅改修の事前申請も同じように認定前から進められるとは限りません。
そもそも住宅改修費の補助を受けるには、要介護認定を受けていることが前提になります。まだ申請していない場合は、別記事「要介護認定はいつ・どうやって申請すればいい?入院中申請の実際」もあわせてご確認ください。「うちの地域では認定前に申請できるのか」は、担当のケアマネジャーか市区町村の窓口に早めに確認しておくと安心です。
業者選びは、まずケアマネジャーや地域包括支援センターに相談を
住宅改修は、どの業者にお願いしても補助が受けられるわけではありません。介護保険の住宅改修費として扱ってもらうには、申請書類の作成に慣れた事業者に依頼すると手続きがスムーズです。どの業者を選べばよいか迷ったときは、まずケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、紹介してもらった上で見積もりを比較検討してみてください。ケアマネジャーがまだ決まっていない場合の探し方は、別記事「ケアマネジャーがまだ決まっていないまま退院日を迎えそうなときは」で扱っています。
どこに手すりが必要かは、専門職の目で確認してもらうのが確実です
家族だけの判断で「ここに手すりをつけよう」と決めてしまうと、実際の動作に合っていなかったり、退院後に位置を直したくなったりすることがあります。入院中に理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、段差や手すりの要否を確認する「退院前訪問指導」というしくみがあります。実施しているかどうかは病院によって異なるため、まずは病棟スタッフやMSW(医療相談室)に「退院前に自宅を見てもらうことはできますか」と確認してみてください。利用できる場合は、実際の生活動作を見てもらった上でアドバイスがもらえるため、どこに何を設置すべきかがぐっと具体的になります。
賃貸住宅にお住まいの場合は、大家さんの承諾も必要です
持ち家ではなく賃貸住宅にお住まいの場合は、もう一つ確認しておきたいことがあります。住宅改修費の申請には、原則として住宅の所有者(大家さん・管理会社)の承諾が必要です。本人が所有者でない住宅に住んでいる場合は、この承諾を得る手続きにも時間がかかることがあります。賃貸住宅にお住まいの方は、この点も相談のなるべく早い段階でケアマネジャーに伝えておくと、手続き全体が滞りにくくなります。
まとめ
住宅改修は、良かれと思って先に着工してしまうと補助が受けられなくなるという、後戻りしにくい落とし穴のある手続きです。ポイントを整理すると、①相談は退院の1ヶ月前くらいから始める、②着工前の事前申請と承認を待ってから工事に入る、③支給限度基準額20万円の範囲内で対象工事を確認する、④認定結果前に申請できるかは自治体差があるため早めに確認する、⑤業者選びはケアマネジャーや地域包括支援センター経由で行う、⑥賃貸の場合は所有者の承諾も忘れない、という6点です。
制度の細部は自治体や個々の住宅の状況によって異なるため、最終的にはお住まいの市区町村の窓口、またはケアマネジャー、地域包括支援センターに確認してください。この記事は、そうした窓口に相談しに行く前の「地図」として使っていただくためのものです。退院までにやることの全体像は、別記事「親が脳卒中で入院。退院が決まったら、まず何をすればいいか」でも整理しています。
